秋の七草のひとつ、藤袴。8〜10月にかけて、房状の小さな花を少しずつ咲かせます。『万葉集』にも登場しているほど古くから愛されてきた花で、『源氏物語』でも夕霧が玉鬘に藤袴を贈る場面が描かれています。茎や葉から桜餅の葉に似た甘い香りがすることから、古くから匂い袋などにも利用されていました。
かつては道端に咲く馴染み深い花でしたが、現在では絶滅の危機が迫っています。京都古来の自生種の藤袴は、一度は絶滅したと考えられていました。しかし1998年、京都の大原野で再発見されて以来、地元住民が力を合わせて藤袴の保全・育成に努めています。さらに藤袴の魅力を広めようと、社寺に藤袴を奉納したりイベントを開催したりもしています。こうした地道な活動のおかげで、近年秋の京都ではさまざまな場所で藤袴の姿を目にすることができるようになりました。
京都の人々に大切に守られ育てられてきた藤袴。秋の京都では、藤森神社(ふじのもりじんじゃ)や下御霊神社(しもごりょうじんじゃ)、梨木神社(なしのきじんじゃ)、下鴨神社(賀茂御祖神社)(しもがもじんじゃ(かもみおやじんじゃ))、伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)など、さまざまな神社の境内でもその美しい花を愛でることができます。自生する藤袴が見つかった大原野エリアにある大原野神社(おおはらのじんじゃ)も、秋に藤袴を見られる神社のひとつ。世界最古の長編小説『源氏物語』の作者として知られる紫式部が、氏神として崇敬していた神社でもあります。『源氏物語』のなかでは、大原野へと向かう冷泉帝の行列の華やかさと美しさが描かれており、作者・紫式部の大原野への想いの強さが伺えます。歴史ロマンをたっぷりと感じられる大原野神社で、藤袴の甘い香りに包まれて、秋の参拝を楽しんでみてはいかがでしょうか。